「ん? 誰か残業してるのかな?」


 人の気配がする。まだ宵の口だし、現場が遠かったら考えられない話では無い。駐車場の方から廻ってみたが、作業車は無かった。

みんな車で通っている筈なので、駐車場が空カラならば即ちここに人は居ない事になる。

 背中に悪寒が走った。

これはひょっとするかも知れない。

 駐車場は砂利敷きなので足音が立ってしまう、俺は注意深く歩を進めた。どうやら廃材置き場にそいつは居るらしい。

表に廻ってみると、クズ材木の山のふもとに背中を向けてしゃがみ込んでいる男が居た。


「!」


 こちらからでは武器になるような物は何もない。しかしそいつはごそごそと確実に放火の準備をととのえている。

そいつの背後に忍び寄り、ペットボトルを思い切り肩口へ降り下ろした。


「ウグッ!」


 呆気なく足元に転がったそいつの手首を後ろ手に縛り上げ、両足首にも念入りにロープを巻き付ける。

余りに慌てていた為に、腕と足は小さい浮き輪をはめたみたいに太くなっている。


「ううっ、なんだっ? 縄をほどけ!」


 暫くして意識が戻ったそいつは、グネグネと身体を捻り精一杯の抵抗を試み始めた。ここを離れている間に犯人から逃げられてしまっては元も子もない。


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