「あの子も夕焼け見てんのかな」


 真っ赤に染め上げられた橋の上でひとり、風に煽られる長い髪を気にもしないで、女性が夕日を眺めていた。


「今日の夕焼けの素晴らしさに感動したんだろうな。あの子の一日も充実してたらいいな」


 そう呟いて岩を降り、また見上げた時には彼女はもう居ない。


「きっと家族の元へでも帰ったんだ」


 少し羨ましい気持ちにはなったものの「俺にだって故郷に帰れば親戚のひとりやふたり」と田舎に居る祖母と叔父家族の事を思い出す。

今回の件でその親族に迷惑が掛からなかったのが不幸中の幸いで、そう言えば一年程前に一度「何とか元気にやっている」と電話をしたきりだ。


「ああ、ちえももう大人の女性だよな」


 親戚家族の事を思い出したら中三の時に失った家族との温かい食卓もよみがえってきて……、いきなり空腹感に襲われた俺は晩飯の支度をするために資材置き場へと向かっていた。



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「はぁ。母ちゃんのカボチャスープが飲みたいなぁ」


 食後、何故か腹は膨れても胸の中にポッカリと穴が開いたようで満たされない俺。亡き母の得意料理が堪らなく恋しくなり、人生初めてのホームシックに襲われていた。

しかし俺には温かく迎えてくれる家族は無いんだ。


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