俺はいつものように建築廃材の置き場から適当な薪を見繕って抱え込んだ。「資源泥棒」だって? 失礼な! ちゃんとここの社長とも交渉済みだ。


「バタカクって言って、この太い角材は火の持ちがいいんだ。あっ、お世話になってます」


 ここの職人さん達だ。みんなは、こんな俺にも好意的に接してくれている。


「おう、兄ちゃん。そう言やぁ兄ちゃんが言ってたノコギリと金槌、古いのが有ったから持ってきてやったぞ?」


 作業車に頭を突っ込んで何やらごそごそとやっていた彼は、「ほれ、少し錆びちゃいるが釘も」と言ってずだ袋に入れたそれらを渡してくれた。


「広瀬さん、ほんとにいつも、何から何までお世話になっちゃって」

「いい若いもんが気ぃ使うんじゃねぇよ。ご近所さんじゃねぇか、はっははっは」


 みんなから『おん爺』と呼ばれている彼は、日焼けした顔をくしゃくしゃにして、ヤニで真っ黒になった歯を見せ「ニカッ」と笑った。

 最初に声を掛けてくれたのも、ここの社長に話を通してくれたのも彼だ。前に「どうしてこんな親切にしてくれるんですか?」と聞いた事がある。

広瀬さんは悲しそうに微笑んで「ひと月程前に、丁度兄ちゃん位の息子を亡くしてな。放って置けなかったんだよ」と言った。

勤務中の事故で突然ご子息を亡くされた彼は、以前のように笑う事も無くなっていたんだという。


< 3 / 199 >

この作品をシェア

pagetop