「……ちゃん。兄ちゃん、どうかしたか?」


 ん? 広瀬さん? どうしたんだろう。


「はぁい、おはようございます」


 寝惚け眼マナコで起き出した俺は、寝癖でグシャグシャであろう頭を掻きながら広瀬さんを出迎えた。


「酷い格好だな、兄ちゃん。最近顔を見ないから風邪でも引いてるんじゃないかと思ってな。どうかしたか?」


 あれから何のやる気も起こらなくなり、俺は建築中の御殿に何をするでもなく籠り切りになっていた。

しかし、こんな俺を気に掛けてくれる人が居ると思うと、無性に胸が熱くなる。


「ああ、すみません。なんだか急に親が恋しくなってしまって……でももう……」


 俺は虚勢を張る事さえも忘れて、己の弱さをさらけ出していた。

広瀬さんに家族の話はしていなかったけれど、皆まで言わずとも俺の事情を解ってくれた様で……。


「兄ちゃん。儂んとこ泊まりに来いよ。儂らもほら、な?」


 そう言って微笑む広瀬さんの優しさに、俺は甘えてしまう事にした。



──────────────



「はい、お兄ちゃん。ここの牛タンは美味しいんだよ」


 ご飯が出来る迄のツマミにと奥さんが出してくれたそれは、少し焼け過ぎて固くなっていたけど、ここ数年で食べたどんな物より美味しかった。


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