区画的に周りには民家が無いから、こんな早朝から派手に水音を立てていても近所迷惑にならない。俺は暫く、熱い飛沫が身体を打つのに任せていた。


「でも……橋の上で待ち伏せするっていうのも、ストーカーみたいだしなぁ」


 シャワーを浴びながら俺は、何とか彼女と言葉を交わして、少しでも明るい方向へ押し上げてあげられないかと考えていた。

こんな俺でも何とか楽しくやっている、という事を伝えてあげたかったのだ。

どんな悩みが有るかは解らないけど、死ぬ程辛い事なんかそうそう無いんだから。

 ところが程無くして、俺は彼女と話す機会を得る事になる。



その日の夕方──────────────



「おい、冗談はやめろよ。そんな……!」


 橋を支持している太いワイヤーを伝って上手に手すりをよじ登った彼女は、きれいな空中姿勢を取りながら川へと落ちて行った。

水柱が高く上がったが意外な程に音は小さく、入水がスムーズだった事を窺わせる。


「……なんて、悠長な事を言ってる場合じゃない!」


 俺はそこら辺に転がっていたミネラルウォーターの空ペットボトルの栓を閉め、小脇に抱えてダッシュする。


「ここは流れも緩やかだ、俺でも頑張れば助けられるかも知れない」


 俺は勢い良く川に走り込んでいた。


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