でも俺の世話を焼く内に気が紛れたのか、少しは元気が戻ったそうだ。


「じゃ、シャワー頂いて行きますね」


 そんな訳で広瀬さんは何かと面倒を見てくれている。月500円で詰所のシャワーを使い放題にしてくれたのも、勿論彼だ。


「おう、でも兄ちゃんはしっかり金を払ってるんだ。堂々と使っていいんだぞ?」

「いやぁ、シャンプーリンスも石鹸も使わせて頂いてるんですから、そんな訳には行きませんよ」


 広瀬さんは「出来た兄ちゃんだなぁ」なんて言ってくれるけれど、中学卒業と同時に身寄りを失った俺には当然の世渡り法だ。

感謝の心を言葉と態度で表す事は、この世に生まれて来た人間の基本なんだと両親からいつも言われていたから、元々俺には普通の事でもあったけれど。

 しかし、本当に俺はラッキーだ。

普通は生活が成り立たなくて住む家も無いとなれば風呂なんか入れない。更にこれからの季節は冷たい風に吹かれ、寒さに凍えてしまうかもしれない。

その点俺には雨風がしのげる『橋の下御殿』が有るし、スクラップを売ったお金で質素では有るが毎日の食事にも困らない。いや、何とか死なない程度に食べられているという位か。

こうしてシャワーを浴びている今も、胃袋はぴーちくぱーちく餌をねだって騒がしい限り。

 そう。

俺はホームレス。

ちょっとした事情からこんな事になっている。


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