しかしまたいつ買えるかも解らないそれを、おいそれと消費してしまう訳にはいかない。


「いや、俺は川の水で満腹だし……」

「あっ……すいません。私の所為で……ああっ!」


 彼女は正座したまま飛び上がり、背筋をキチンと伸ばしてまた正座のまま着地した。


「私まだお礼も言ってない! 助けて頂いて本当に有り難うございます」

「いやいや、良かったよ。怪我も何も無くて……って、ちゃんと確かめてみて?」

「は、はい」


 慌てて立ち上がり、首を回したり手を振ったり、足を曲げたり伸ばしたりして彼女は言った。


「どこも何ともなってないです……でも……自殺しようとしてたのに、可笑しいですよね」


 そして彼女はぽつりぽつり、自分の事を話し始めた。



──────────────



 彼女も俺と同じように両親と兄弟を亡くしてひとり、東京で頑張っていたらしい。故郷の親戚からは縁談ばかりが舞い込んで、煩わしさを感じていたんだという。


「今回こんなにお相手がおいでですけど、どうされますか?」

「私、好みにはうるさいんです。前回なんかまるでいい男がいなかったし」

「そうですよね、お綺麗な方ですから釣り合いが取れないとご不満でしょう」


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