『解ってるんならもっとまともな男を紹介せんねっ!』


 彼女は心の中で叫んでいた。

方言が出る事を恥じて普段から人と交わる事を避けていた彼女は、こちらで働いていてもそういう出会いに恵まれる事はなく、気付けば周りから『お局様』と陰口を叩かれる程のキャリアを重ねてきてしまっていた。

しかもバリバリと仕事をこなす華々しい営業職とは対局の地味な事務仕事。領収書の不備を指摘しては恨みを買うような、なんの旨味も無いポジションでのキャリアなど、彼女の恋愛には何の恩恵ももたらさなかったのだ。


『叔母さんがうるさいけん、自力で何とかしたかったばってん。どうしてこぎゃん冴えない男ばかりしかおらんと?』


 溜め息混じりにめくるプロフィールが虚しく乾いた音を立てる。担当者は満面の営業スマイルで彼女を見詰めているが、心の中では何を考えているかも解らない男からの視線は、彼女を苛つかせこそすれ、安心感の欠片も与えてはくれない。

 30人余りのファイルも残り数名になった。


「なんか今回もパッとしませんねぇ」

「最後までご覧になって下さいよ。お綺麗でらっしゃるのは解りますし、お若くもお見受けするんですが、如何せん大台を越えてらっしゃると……」


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