「30越えたら少しは妥協せんとイカンち言わっしゃると?」


 彼女は怒りの余り、方言丸出しで担当者に詰め寄った。彼は当惑しては見せたが、マニュアル通りに残りのプロフィールを閲覧する事を勧める。


「そうは申しておりませんとも、現にこれだけの応募が有ったというのは、引き手数多アマタである証拠ですし……どうか見るだけでも」


 彼女は取り乱してしまった気恥ずかしさも手伝って、渋々残りのプロフィールへ目を通した。


「……!……」


 その内のひとり、一際輝く笑顔の写真に彼女の目は釘付けになる。


『こんひと、よか男たい』


 それは初恋の彼に感じたような、切なくも甘いトキメキだった。彼女は詳しく読み進めて行く。

年は少し下だが住んでいる場所もそこそこ近い。親が会社経営で本人は公務員というのも捨てがたい。

何より年上の女性希望という条件に、自身こそが求められているという証しを感じられ、彼女はその男のプロフィールを抜き出した。


「お好みの男性がいらっしゃいましたか、それは良かった」


 担当者は「そら見た事か」と半ば空々しい態度を取っていたが、彼女にはそんな事も気にならない程の期待が募っていたのだ。


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