「星は綺麗だけど、お月様頑張り過ぎ」


 その余りに明るい光量に負けて、折角の星の瞬きが陰っている。


「さ、続きは明日にしよう」


 そう言って床に就いた俺だった。

 しかし夜になって激しくなった風で『橋の下御殿』を主に構成しているブルーシートがはためいて、その日の夜はまんじりとも出来ずに明けて行った。


「んん……もう朝か。最近は早起きとは無縁の生活だったからなぁ。ついでだし、ご来光でも浴びるか」


 とはいえ夜明け前の一番寒い時間だ。俺は今年で3年目の古びた防寒ジャンパーを着込んで、目をこすりながら表に出る。

 いつもの岩に登って、いつもとは反対方向の景色を眺める。

街の向こう側に海が有る西側とは違って、東側にはその果てに山並みが有り、その稜線が空と地面を分けている。

 綺麗なオレンジ色一色に彩られた空。辺りの空気の流れも変わり、いよいよお日様のお出ましだ。

遥か遠くに連なる山々を縁取るように光が走ると、丁度一番高い山のてっぺんからほんの少し、顔を覗かせる。

 そして放射状に延びる光の翼を拡げると、まるで日章旗の様な太陽がその全貌を現した。


「はぁあ、見事だな。こりゃ朝からいいもん見たよ」


 昨日バタバタとやかましかったブルーシートのお陰で一睡もしていない俺だからこそありつけた、最高の景色だった。


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