「ちょっと聞きたいことが有るの。貴方の出身って……」

「イタリアのトスカーナ地方に有る村だ」

「違うちがう! 知りたいのはその村の名前よ!」

可奈子は地団駄を踏んでゴブリンを急かした。

「ヴィンチ村だ」

「あああ、なんてこと!」

可奈子は膝から地面に崩れ落ちた。

「ヴィンチ村のヴィンチ家……なんであのレオナルド・ダ・ヴィンチがこんなゴブリンにされてしまったの? ねえどうして? アダッヂオ」

ゴブリンは眉根を寄せて考え込んでいるが、どうにも思い当たらないようだ。

「解らない。頭にモヤがかかったようで、晴れてくれないんだ。だが可奈子、私はレオナルドだ」

人間だった頃の記憶の断片しか思い出せないゴブリンは、羽根をばたつかせて悔しがっている。


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