このペコペコの腹を抱える生活になる前は戸建て住宅の営業をやっていた。尤もその頃は腹じゃなく、頭をペコペコ下げていた訳だけれど。

お客さんを施工中の物件に案内する事も多かったので、家の構造や建築過程はおぼろ気ながら解っている。

 結構やり手の営業マンだったから羽振りは良い方だったんだけどね。「会社が潰れたんだろう」って?

残念。

会社はこんなご時世となった今でもなんとか続いてるようだし、やり手の営業マンだった俺をリストラするなんて事は有り得ない。

「じゃあなんで」って、……人には触れられたくない過去も有るんだけどな。ええ、ええ。

体テイよくはめられちゃった訳ですよ。ノルマ達成の為に突いた保証人の判子が、実は連帯保証人だったなんて、笑い話にもならないでしょ!

 まあそんな事も有って今はこんな暮らしって訳。俺は独身だったから、家族に迷惑かけなくて済んだだけ、良かったんじゃないかな。


「まずは足りない物を拾い出してみないとな」


 拾った油性マジックで思い付いた物を段ボールに書き出していくと、結構な量の『足りない物リスト』が出来上がってしまった。


「こりゃかなり往生するぞ? 飯でも喰って、腹ごしらえしてから考えよう」


 100円ショップで買った鍋にミネラルウォーターを入れると、かまどに火をくべた。


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