「そうよ。私の父がそうだった。うだつの上がらない町工場で、朝から晩までネジを作り続けていた。来る日も来る日も、埃と汗と油にまみれてね」

可奈子は眩しそうに遠くを見詰めて言う。

「労働者を蔑むことはしないが、それは素晴らしさとはまた別の次元だろう、可奈子。

毎日同じことの繰り返しでは、ご尊父もさぞつまらない思いをされていることだろうさ」

息を吹き返したゴブリンは、そう彼女に食って掛かる。

「私もそう思ってた。私と姉二人を大学迄通わせる為に、風邪をひいても怪我をしても、決して工場を止めなかった。

父は泣き言ひとつこぼさずに働き続けたの。立派な父だった」

可奈子は誇らし気に胸を張る。


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