翡翠の帯留
翡翠の帯留
七宝焼きの、
小さい宝石箱。

「昔、ママがよく言ってたんだけど」

こんな年長の人が、
ママって言うのを聞くのは、
ちょっと新鮮。
だけど、
文ちゃんは、
そう言うのがそんなに変じゃない。

「お祖父さんの部屋の違い棚に、
これと同じ、
翡翠のカフスがあるの、って」

宝石箱を開けたら、
緑色の石のはまった
金色の、これ、何だろう。

「前の家に、
違い棚なんてなかったよねえ?」

「前の、家にはね」

和子伯母さんも
真佐子伯母さんも、
お父さんも、
お母さんも、
そして私も。

お祖父ちゃんの遺影の飾ってある、
祭壇の方を見た。
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