W・ブラッティⅡ
 他のマネキン二体にも同じことをやるが、両方とも切られた場所から崩れ落ち、佐竹は刀を鞘に戻した。


 客席側から拍手が聞こえた。ここには自分しかいない。自分が出す音以外物音がするのはあり得ない。


 大嶺か?それともメンバーの誰か?佐竹は拍手をしている主を見る。


 佐竹の眉間にしわが寄りメガネを上げる。そこにいたのは蜃気楼奇術団の誰でもなく、年にして十二歳ほどの女の子が二人。逆光なので詳しくは見えないが二人とも同じ背丈、服装をしている。双子だろうか?


「何の用だ?ここは子供の来る場所ではないし、起きている時間ではないぞ。すぐにお家に帰りなさい」


 客席の一番後ろから二人の女の子はゆっくりとした足取りで階段を下りてついには客席の最前列まで来た。二人は共に黒いジャンパースカートの上に黒いジャケットを重ねて着ている。


「お見事な刀さばきですわ。お兄様」


 赤いリボンカチューシャをしている女の子、エクレシアが口を開いた。


「生憎だが俺はお前のお兄様ではない。俺は一人っ子でな、兄妹いない」


 『お兄様』の部分をかなり強調して返す。左手でメガネを上げる。


 まったく、警備の人間は何をしているんだ?こんな時間に子供を入れるなんて……。


「お前たちの親はいないのか?どうしてこんなところに来ている?ここは『関係者立入禁止』と書かれているのが見えなかったか?」


 今度は青いリボンカチューシャをつけた女の子、カトリカが答える。


「私たちも関係者よ!あなたの、博文様の妹たちです!」


 それを聞くと佐竹は一層厳しい形相で二人を睨み、右腰に差さっている刀を抜いた。まだ距離はあるが真っ直ぐ、カトリカの目を目掛けて刀を構える。
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