W・ブラッティⅡ
 旅行当日。午後三時半。


 慎次たちは今日乗る寝台特急の止まっているホームにいた。


 そのホームにだけ他の電車とは趣が違う電車が止まっている。他のホームにはスーツを着た人や、制服を少し開けて着る学生の姿がある。


 寝台特急ムーンエクスプレス。最高の乗りやすさを追求した寝台列車で、速度の方は在来線とほぼ同じスピードで走るが、電車特有の揺れがないことで評判が高い。毎週木曜日に一往復、東京・札幌間をノンストップで走る。


 さらにムーンエクスプレスの評判の高さは揺れの少なさだけではなく、夕食と朝食の豪華さも他の寝台列車とは一線を画すとのことだ。


 発車四十分前になってようやく電車のドアが開いた。待っていた乗客が順々に車内に消えていく。


「何か買わなくてもいいの?ここを出ると明日の十時まで何もできないわよ?」


 玲菜の忠告で慎次は駅の販売所でペットボトル二本と、チョコレート菓子を購入した。麻耶もペットボトル一本とお菓子を買って車内に入って行った。


 車内では自分の席を探して歩き回る人が多い。慎次たちはそれを避けつつ自分たちの部屋に到着した。


「二等客室のBの十二から十五。あったここだわ」


 玲菜が見つけてすぐにドアを開ける。


 開けた先はカーテン付きの窓と二つの二段ベッドとその間の四畳半ほどのスペース。


「まあ。二等客室なんてこんなものさ」


 明らかに期待していた慎次・麻耶の二人をなだめるべく良太が言った。


「そうよね。三等客室はここより少し広いだけでベッドの数が倍あるのよ。それに比べたらまだいい方だと思うわ。それに貰いものだからケチは付けない。分かったわね?」


 玲菜の最後の一言がダメ押しとなって二人は力なく頷いた。
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