W・ブラッティⅡ
 真っ白なのは慎次の心か、それとも自分の差し伸べる手か。


 答えは明白だ。真っ白なのは慎次の心で、私の手は黒く汚れている。そのままの手で触れば慎次の心が汚れてしまう。


 汚れてしまった心は元には戻らない。人の心はパンドラの箱のように簡単に、それこそ好奇心で開けてはならない。


 麻耶は体を起こして慎次を待った。あくまでも釘を打つくらいでいいだろう。


『悩んでいたら私に相談して』


 心の中で何度も自分に言い聞かせた。


 すぐにノックの音が聞こえ、


「麻耶?いる?」


 慎次の声だ。


 麻耶はドアの鍵を開けて慎次を迎え入れた。


 その瞬間麻耶の思考が止まった。思考だけではなく体が固まった。


 原因は慎次が連れている二人の少女だ。


「……誰?この子たち?何で慎次が連れているの?」


 慎次が困ったように麻耶との視線をそらした。


「いや……少しトラブっているところに出くわして助けたら懐いちゃって」


 慎次が連れてきたのはエクレシアとカトリカ。彼女たちは少しむすっとした麻耶のことを警戒しているらしく、慎次の背中に隠れるようにしている。


「それは良いけど、この子たちの親は?さすがにいるでしょ?探してあげるわよ」


「それが……」


 慎次がばつの悪そうな顔をした。麻耶はそのことを読んで大きなため息をついた。


「彼女たちはどこの部屋なの?」


「一等客室……」


 麻耶は顔を手で覆った。まったく親は何をさせているのだか。気を取り直して慎次に話しかける。
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