W・ブラッティⅡ
「それでこれからどうするつもりなの?まさかあなたこの子たちと泊るつもりではないでしょうね?」


 慎次は左右の少女たちを一瞥した後、ゆっくりと首を縦に。遂に麻耶の怒りも爆発した。


「慎次。いい加減にしてもらえる?どうしてあなたはそんなに勝手なの?今日はどうしてここにいるの?家族旅行で来ているでしょう!?」


 激情にかまけて叫んでしまった。周りが麻耶たちを見ているのを気付いて途端に顔を赤くして泣いてしまう。


 慎次は困り果ててしまった。どっちを取ればいいか分からないからである。二人の少女か、それとも泣いている自分のことをよく知っている少女を選ぶか。


 慎次はしゃがんで二人の少女に話しかけた。


「……ごめんね。僕は家族旅行で来ているから今日はこの部屋で泊るね」


 少女たちは残念そうにゆっくりとした足取りで自分たちの部屋に帰って行った。


 慎次はもう一人の泣いている少女をなだめる。しかし、麻耶がそれを拒んだ。


「良いわよ……。私がどれだけ慎次のことを心配しているか分からないんでしょ?今日だってそう。慎次は何でも一人で抱え込むからこっちは……」


 そこまで言うと慎次は麻耶のことをそっと抱き寄せた。


「……ごめん。麻耶がそこまで気遣ってくれてるなんて知らなかった。ありがとう……。」


 麻耶は慎次の胸で大きな声で泣いた。周りにいる乗客なんて気にしないで泣いた。


 慎次はただそれだけを愛おしく見ていた。


 やっぱり自分は一人じゃないと確信した。自分が世界を否定していた。それが分かっただけでも嬉しい。


 慎次は麻耶が泣きやむまで麻耶のことを抱きしめていた。
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