W・ブラッティⅡ
「命の保証どころか、傷すら付けたことの無さそうなお嬢様たちだな?命の保証がないのはお前たちの方じゃないのか?」


 そう言って男はジャケットの胸ポケットから拳銃を出した。その黒光りするシルエットに二人の顔色が変わる。


「大人しく俺の要求額で手を打ってくださいよ。そうすれば痛い目を見ないで済みますからね?」


 完全に馬鹿にしている。無理もない。彼女らには武器を隠し持つスペースが無さすぎる。せいぜい隠しきれてもナイフ一本が限界だ。


 男は不思議な顔をしている。


 ――なぜ?なぜ銃を突き付けられても怯えない?


 男の疑問は晴れない。特に動くこともせずじっと男の方を二人して見てエクレシアが口を開く。


「あら?その銃はトカレフね?銃も中国産なんて、あなたは中国が大好きなのね?その郷土愛は大したものね。」


 挑発された怒りに任せて男がカトリカ目掛けて発砲した。三発とも全て微妙に狙った場所をずらしている。一発目は左鎖骨、二発目は右脇腹、そして三発目は左二の腕。それも完全に当たる。男はそう確信した。


 しかし、待っていたのは幻と言える現実が男に待っていた。


 今さっきまで深く椅子に座り込んでいた二人が、いつの間にか別の場所に移動している。反応出来たのはおそらく銃を撃ってからのわずかコンマ一秒にも満たない時間。彼女らはその時間で銃撃をかわしたのだ。


 呆気に取られる男を尻目にエクレシアがゆっくりと近づいて男に話す。


「今の世の中は最強の武器は銃だけど、もしその銃がナイフなんかに負けたらどうする?」


 男は舌打ちをしてエクレシアに銃を乱射。先程の緻密な射撃とは無縁ながらも至近距離から発することで粗さをカバーしている。


 しかし、エクレシアはギリギリのタイミングで男の撃った弾を避け続ける。彼女の顔も次第に笑みが浮かんできている。
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