W・ブラッティⅡ
これを見た麻耶は大笑いをしている。


……そこまで笑わなくてもいいのに。


しかし麻耶は慎次とはまったく違い赤いイブニングドレスを完璧に着こなせている。挑発しているのかくるりと一回転。赤いスカートがひらりと華麗に宙に浮く。元々整った顔つきの麻耶がまるでどこかの御令嬢になったように見えた。


僕と全然違う……。


まるで優雅に歩くお姫様を遠巻きで見ている一般平民。同じ家で住んでいるのにこうも違うとは……。慎次は少しだけ麻耶のことを嫉妬していた。


しかしすぐに今のことを忘却の彼方に追いやった。そんなこと考えても仕方ない。昔から違うものを今羨んでどうする?そんなことで手に入るものか?そう自問自答してすぐに麻耶に近づいて、


「早く行こうよ。バスの集合に遅れちゃうよ?」


 麻耶は部屋に備え付けてある時計を見る。すでに集合五分前、玲菜も良太も部屋の外で待っている。


「ああ!もうどうして!もっと早く言ってくれないのよ?遅れそうじゃない?」


「仕方ないでしょ!?麻耶が鏡の前で見とれているからだよ!」


 二人は廊下に出るドアの前で一触即発の状態だったが、部屋の外で待っていた二人の前に出るとその事なんて頭から離れてしまった。


 外で待っていた玲菜のドレス姿。


 慎次と麻耶はその姿に見とれてしまい、呆気にとられている。


 麻耶がお姫様だとすれば玲菜は王女か。


 白いドレス姿は美しさ以上に気品と清潔さが強調され、すっかり落ち着いた大人の女の艶やかさがオーラのように輝いている。


 そして二人を見て、少しだけ下を見ながら微笑む様子はまるで女神そのもののように錯覚する。


 さっきまで騒いでいた麻耶が押し黙っている。自分の美貌にうっとりしていた少女が、本物の美しさを持っている母親を前にして何も言えない。


 井の中の蛙大海を知らず。か。


 おそらく麻耶はそう思っているだろう。
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