W・ブラッティⅡ
 バスに揺られること二十分少々。札幌の街から少し北に向かった先に札幌迎賓館があった。周囲には申し訳程度に建つ企業向けの建物と広大な駐車場以外何もなかった。その建物もおそらくは迎賓館のお抱えの企業の建物だろう。


 中に入るとまるで中世ヨーロッパの宮殿に招かれた貴族のような錯覚になる。白に統一された壁にいたるところに油絵などの絵画。床一面には赤い絨毯と本当に迎賓館だった。


 そこで行われるのがマジックショーなのは些か場違いのように思われるほどだ。ここで行って良いのは晩餐会か著名なオーケストラのリサイタルだろう。


 すでに観客のテンションは最高潮。指定席なのに我先にと会場であるホールに向かうのであった。


 すでに他の観客と水をあけられたのは新城家の四人だった。ステージが始まるまでまだ一時間残っている。それならばゆっくりと迎賓館の中でも見ようと提案したのが良介だった。


「うーん。すごいなあ。日本でもここまで忠実に再現できたのはここしかないな。じつに素晴らしい」


 研究者でもあり建物マニアでもある良介は区画ごとに微妙に違う真っ白な壁を見て唸っていた。素人がパッと見ただけでは到底分かりそうの無い違いを的確に見つける。
誰もいないので特に何も言わないが、彼は夢中になると周りがほとんど見えなくなる。昔、デートの待ち合わせの時も、ゴシック建築の建物を五時間ほど眺めていたらビンタされて振られたと言っていた。


少なくとも良介はその気になれば朝から晩まで建物のことをずっと見ていれるような気がした。
< 47 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop