W・ブラッティⅡ
麻耶と玲菜は姿が見えないので恐らくトイレだろう。玲菜はともかく麻耶もバスを降りてから妙な気合が入っている。さすがは玲菜の母親。血は争えないというものか。
では、慎次。自分はどうだ?


自分は趣味のようなものがほとんどない。あるとすればダーツくらいだ。
きっかけは慎次の父親だった新沼賢吾が三歳の誕生日の日に買ってきたものだったからだ。慎次は賢吾から物を買ってもらったのは初めてだったので今でもそのことは覚えている。共に笑顔だったあの時。慎次があの家で暮らした中で最も幸せな一日だった。


しかし、翌日から賢吾の態度は一変した。そんな気がする。


毎日毎日、何かにつけて自分を殴ったり蹴ったりする賢吾はまるで地獄から来た悪魔のようだった。いくら自分が謝っても賢吾はその言葉が聞こえなかったように無視し、暴力を加え続ける。


遂に三年間、誰かが通報してやってきた児童相談所の人が来るまで誰も自分のことを助けてはくれなかった。


新城玲菜が引き取ってからは生活は大きく変わった。今まで親から暴力を振るわれることも無くなったし、玲菜さんと良介さんは優しいし、毎日三食しっかり食べさせてくれた。あの家では三日間水だけで飢えをしのいだこともあった。


麻耶という姉のような存在も出来た。どこか浮き気味になる自分のことをしっかりと引き留めて、きちんとした道を歩ませてくれた。


優貴という友達も出来た。少しだけ大雑把な奴だけど、それでも自分のことをよく理解してくれて周りの状況を教えてくれた。


悠介という心強い味方も増えた。きっかけは良いものじゃなかったけど、しっかりとした考えで道を踏み外しそうになった自分を引っ張ってくれた。


これからやってくる数々の試練。辛くなることがいっぱいあると思う。逃げ出したくなると思う。
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