W・ブラッティⅡ
でも僕は逃げない。自分の使命から逃げ出さない!


――それがお前の答えか?


『……うん!これが僕の答えだ。だから遺産の相続問題も僕は逃げないでしっかり受け止める』


 ――分かった。ありがとう。お前が協力してくれるのはすごく心強い。


 慎次は少しだけ笑みを浮かべた。まずは目の前にきた敵を倒す。そして技術を手に入れ破棄する。もう二度とこの世に鉄斎の技術を使ったテロで犠牲者が出ないためにも。自分がやらねばならないんだと。心に決めた慎次の顔に出てきたのは決意に満ちた顔ではなく、笑顔だった。


「慎次。どうしたの?ニヤニヤしてそんなにマジックショー楽しみなの?」


 後ろから麻耶が声をかけてきた。慎次は心臓が体の外に飛び出るくらい驚き、荒れた呼吸を急いで整える。


「う、うん。そりゃ楽しみだよ。なんせ人気急上昇中のマジックグループってニュースでやってるくらいだもん、気にはなるでしょ?」


 後ろを振り返り、麻耶を見ると手提げの紙袋が両手を見事に塞いでいる。よく見ると明らかにセンスの欠片も感じさせない鉢巻をしている。


 慎次は麻耶に恐る恐る聞いてみる。


「どうしたのそれ?」


「これ?蜃気楼奇術団のグッズよ。結構種類が多いからこんなになっちゃった」


 麻耶笑顔で床に紙袋を置いて中身を見せる。下敷きやうちわから果てには紫を基調とした人前で着るには勇気の入りそうなはっぴまで買っている。これを見て少しだけ麻耶のイメージが少しだけ悪くなりそうになった。行く前はあれほど奇術団のことを酷評していたのに。


 やはり、麻耶も少しだけ顔が緩くなっている。人のことが言えたものか。と慎次は思ったが胸の中に留めた。


 時計を見ると六時二十分。開演まであと十分となった。すでに人気のない廊下を慎次は麻耶の手を掴んで、


「もう時間がないよ。早く行こう」


 そう言って早足で会場となる大ホールに向かった。
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