W・ブラッティⅡ
 慎次はまだ見ぬ異郷の地を夢見ていたが、悠介に突っ込まれる。


 ――おい。何呆けてるんだ?旅行は来週だろ?今から喜んでどうする?


 悠介とは慎次に生まれたもう一人の人格。先日、鉄斎の開発した『血の起爆』によって元々二重人格の可能性があった慎次に聖悠介という人格が確立された。


 性格は慎次とはほぼ正反対。逃避思考の強い慎次に対して、彼は常に現実的な発言をする。


 彼の祖父、聖鉄斎が起こした『血の起爆事件』は死傷者千五百人を超える爆破テロを起こし、悠介が鉄斎の会社『サイエンスカンパニー』で彼を殺し、良太が先の事件は『血の起爆』という鉄斎の開発したものであると会見を行って事件は収束に向かっている。


 しかし、被害者遺族に対する賠償問題では彼には『サイエンスカンパニー』以外の財産が無いことが分かっており大きくもめているとのことらしい。


『サイエンスカンパニー』は全国に何社もある大企業だが、財産は毎年国に納める税金を


 拠出するだけで精一杯の状況だと話している。この問題の完全解決はもう少し時間がかかるようだ。


 その悠介は事件が終わった後は比較的大人しい。たまにこうやって話しかける程度で体を貸してほしいということも無くなった。


『だって、僕にとっては初めての旅行だよ?嬉しくないわけがない』


 ――なんだってお前は、こう能天気なんだ……。俺はそれが羨ましく思うよ。


 悠介の話を聞いて慎次は顔を厳しくした。


「良いじゃないか。鉄斎の事件だってもう僕らが出る幕じゃないし、後は警察と裁判で決まるでしょ」


 ――……本当にそう思っているのか?


『どういうこと?』


 ――奴がどうやって『サイエンスカンパニー』を作った?それにお前は覚えているか分からないが研究所の設備は充実だった。あれをほぼ無一文な人間が作りきれる代物か?


『……』


 ――俺としてはこのまま事件が下火になるとは思えない。まだまだ起きる。そんな気がしてならない。


 悠介が危惧する事件の再発。果たしてそんなことが起こるのだろうか。それは闇に聞いても分からない。しかし、悠介の予感はすぐに当たることになった。
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