Ｗ・ブラッティⅡ
　歓声がわき起こる中マジックショーが行われた。


　水の中に入れた箱から全身を拘束された佐竹が脱出したり、大嶺が人間大砲でホール奥にいる一場目掛けて撃ったり、渡部は観客を使ってのマジックを展開する。有森はカードマジックで観客の驚きを独占する。


　慎次たちも全国区のマジックショーを間近に見て圧倒されていた。慎次たちが見たことがあるのはテレビでやっている他愛もないマジックをやっているお笑い芸人がやっているのしかないので余計に衝撃を与えた。


　圧倒され続けたまま時間は瞬く間に過ぎていき、気づけばショーも最後のマジックを残すだけとなった。


「皆さん。今日は来てくれて本当にありがとうございました。次にやるマジックは、僕たち蜃気楼奇術団の原点となったリーダー佐竹の十八番のマジックです」


　大嶺がステージ上でそう言うと両腰に刀を入れた鞘を指してステージ上に現れる佐竹。


「今から見せるのは僕が一番最初に覚えたマジックです」


　そう言うとホールは一気に静まり返る。右腰から抜き、左手に持った刀はまるで名刀のような滑らかな輝きをしている。刀身には一切飾りっ気の無い灰色の鋼が鈍く光る。


　大嶺の顔写真が貼られたマネキンに向かってゆっくり一歩一歩ずつ歩み寄る佐竹。


　いつの間に俺の写真を貼ったんだ。と抗議して笑いを取る大嶺。


　身近な距離にいながらも対照的な空気も音の無い一太刀で全てが変わる。


　その一太刀で異変に気づいたのは慎次の中にいた悠介とエクレシアとカトリカだけだった。

< 53 / 73 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop