W・ブラッティⅡ
 音の無き剣撃はマネキンの体を真っ二つどころか粉末に変えた。これを見て、元が何だか分かる人間はまずいないだろう。


 会場は沈黙。この光景を間近で何度も見ているメンバーも少しだけ驚いている。


 少しだけ会場は沈黙に包まれた。それを破ったのは、役割を思い出した大嶺の驚いた声だった。


「おいおい!俺の写真を一緒に巻き込むなよ!あ~……俺の体がミンチだぜ……」


「すまん。すまん。少しだけ気合い入れすぎちゃった」


「少しだけじゃねえだろ!いつもはきちんと原型留めてくれるのに!」
大嶺の悲痛な叫び声で会場内が盛り上がる。ほんのさっきまでの沈黙が嘘のようだ。


 マイクを佐竹が握る。少しだけ緊張が会場内に伝わった。


「ではすいませんが、このマジックにはお一人に協力をお願いしたいのですが、だれか協力してくれる人はいらっしゃいますか?」


 会場内は再び沈黙が支配した。無理もない。佐竹が失敗すれば先程のマネキンのように粉々になってしまう。たった一度の酔狂に命を張れる人間はそうそういない。


「ほら!お前が気合入りすぎて、マネキンを粉々にしたから誰も手を上げようとしないぜ!?」


 大嶺の笑い声を聞いて頭をかく佐竹。


「大丈夫ですよ。今までも何百回やりましたが失敗は一回もありません。安心してください」


 佐竹の言葉はフォローになっているのか分からないがそれでも手を挙げる人はいない。


 ついに佐竹は指名することにした。そして選ばれたのは、


「では、前から四列目の赤いドレスを着たお嬢さん。あなたにお願いします。やって頂けますか?」


 麻耶だった。


 彼女は顔を真っ赤にして震えながらも何回も首を縦に振った。それを見た佐竹は安堵の表情と大きな溜め息をついた。


「では、ステージ上においでになって下さい」


 そう言って麻耶はステージの上にゆっくりと上がる。ドレスの裾を引きずらないように手で捲り上げて階段を上がる。
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