W・ブラッティⅡ
「ちょっと待てよ!俺はつい最近目覚めたって言っているだろ!?それなのにどうして十三年もの昔に出てくる?話が合わないだろう!?」


 麻耶も悠介の意見に同調する。十年前から彼――慎次と一緒に住んでいるが、悠介のような人格を出したことは一回も無かった。しかし、佐竹は話を始める。


「それはそうだ。その手術の後、鉄斎は再び手術を行った。今度は記憶の操作だ。人智を超えるほどの力を生み出せる力があれば、人の記憶くらいいくらでも操作できる。そうやってお前に昔から父親に虐待されたという記憶を脳の一番奥深くに刷り込めば嫌でも人格は憶病になる。二度とあんなことを起こさないために自衛意識が攻撃意識を上回れば力の暴走はほぼゼロになる。つまり!」


 そこで再び悠介に指を指す佐竹。今度は力強く悠介を指し示す。


「お前の本当の人格だと思っていた新沼慎次は聖家のエゴが生んだ人格ってことだ!お前の体の本当の持ち主は悠介。お前だ」


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて話を遮る麻耶。佐竹は少し顔をしかめる。


「話が矛盾しているわよ!『聖の技術は、一つの体に二つ以上入れると壊れる』はずじゃなかったの!?」


「確かに。お前の話は合っている。しかし」


 そこで佐竹は視線を麻耶から悠介に変える。


「そこにいる悠介はどうだ?今も元気でいるだろう?」


 確かに。悠介――慎次は多少精神面で脆い部分があるが、それ以外は普通の人間と同じである。それは十年も一緒にいた麻耶が一番知っている。


「そこで鉄斎は考えたのだろう。『一つの体』ではなくて『一つの人格』に技術を入れたんだ。『血の開放』は慎次に、『血の起爆』は悠介に入れた。壊れたのは二人を分ける人格の境界線だけだった。そのため悠介の人格が出てきたと俺は推察する」


 ひとしきり話が終わると、今度は悠介の顔が顔面蒼白になる。体を震わせ、今聞いたことが到底信じられない、と。


「信じる信じないはお前次第だ。だが」


 そう言って佐竹は右腰に差してあった刀を抜いて悠介に刃を向ける。ステージのライトに充てられた刀身は鈍い輝きを悠介に放っている。
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