W・ブラッティⅡ
「どうして慎次――ううん、悠介は紙を手に入れようとしてるの?まさか!」


 慎次は手を前に出して否定する。


「違うよ!僕たちは世界で技術を悪用するのを防ぐために聖家をまとめる必要があるんだ。強大な力は人を狂わせる。それを僕と悠介で止めなくちゃいけないんだ」


「それは二人でやることなの?他の人――例えば佐竹にやらせることは出来ないの?」


「それは出来ない。人任せにして世界の変化を待つのは……だから!やらなくちゃいけないんだ!鉄斎が『血の起爆』で日本を脅かした。そんなことは絶対に止めなくちゃいけないんだよ!」


 慎次の気迫に麻耶は目を見開いた。この前まで気弱で、自分の意思すら持つのを嫌がった慎次が、今では自分の進むべき道を見つけた。


「……分かったわよ。でも一つ条件がある」


「条件?」


「私もそのことに協力させて!慎次だけじゃ不安だし」


「でも……危険だよ」


 危険。麻耶はその言葉で昨日の戦いの前に佐竹が言ってた言葉が浮かんでくる。


 ――技術を持たない人間では触れることすら敵わない。


「大丈夫よ。その時は慎次が私のことを守ってくれるから」


 麻耶の笑顔に慎次は肩を落とす。昨日の戦いでさえ、佐竹が麻耶を狙ってくればこっちの負けだったかもしれない。今の段階では自分の身を守ることで精一杯だというのに。


「……分かったよ。どうせ嫌だって言っても付いてくるんでしょ?」


 ばつの悪そうに言う慎次をよそに、麻耶は笑顔で、


「その通り。私だって慎次の相続争いに巻き込まれたんだものそれくらいは見せてくれてもいいじゃない」


 慎次は大きなため息をついた。今度はいつどこに来るか分からないというのに、さらに技術を持たない少女と行動を共にしなければいけない。慎次は次の相手――沙希と沙弥の存在がお互い知らない同士であることを願った。二人同時では勝つことなど無理だからだ。


 旅行も最終日というのに慎次の気分は重い。自分の記憶、この先の相手、そして聖家のこと、目に見えない多くのものが慎次の中で溜まっていく。慎次は雲ひとつない空を見て少しだけ気分を晴らしていた。

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