小悪魔男子
コンコン
部屋をノックする音がし、顔をのぞかせたのはお母さんだった。
「さなー。梨、食べない?」
「梨…?」
「うん。お向かいの高田さんから頂いたの。入るわね」
大きな白いお皿に山盛りになった梨をテーブル(使わなくなった小さなコタツだけど…)にコトリと置いた。
「…こんなに誰が食べるの?」
「だぁって…お父さんいらないって言うんだもん。もう切っちゃったし、ね、一緒に食べよ?」
はい、と つまようじに刺さったものを手渡される。
一口かじると、甘く さっぱりとした果汁が溢れ出てきて美味しかった。
「おいしいねー」
「だって採れたてなんですもの。なんでも、果樹園に梨狩りに行って来たんですって。高田さんち、月に一回は小旅行に行ってるのよ?
仲が良くてうらやましいわ~」
「お母さんたちだって仲いいじゃん。毎週毎週デートだなんて…。よく行く所あるよね?」
「へへ…。羨ましい?」
悪戯に微笑むお母さんの顔は、とても40歳には見えなかった。
綺麗で
結婚しても女を忘れていない
そんな顔だった。