振り返る日々
私の住んでいる兵庫県相生市からH大学は電車で20分、それからバスに乗り継ぎ15分。
高校の同窓生で同じH大学に進学した者は多かったが
数ある学科の中で英語学科に進んだのは私だけだったので
勿論クラスメートに知り合いは誰ひとりいなかった。
それはそれで大学デビューを狙う私には好都合だったが
何もかもが初めての所で
全く一人ぼっちと言うシチュエーションにいささか心細さを覚えたのも事実だった。
教室へ入ると、もういくつかのグループが出来ており
彼らは賑やかに窓にもたれて談笑していた。
私のように一人ぼっちの生徒も多数おり、
彼らは椅子に腰掛け、文庫本を開いたり、辺りをキョロキョロしていた。
これがこれから4年間を共にするクラスメートか。。
私は内心心臓バッコバコさせながらも
銭にならない虚栄心から
それを悟られないように
ゆっくり教室を見回し、
自分なりの優雅な足取りで
空いている席へと進み、腰を降ろした。
もちろん、そんな私に注目する生徒など皆無だった。
時計を見ると、始業のベルまで15分位ある。
電車の中で読んでいたペーパーバックの続きでも読もうかと
鞄の中をまさぐっていると
背後から
「それ、フォーラスで買ったやろ?GジャンもTシャツもスカートも」
と声をかけられた。
いきなりネタバレ?!
声のした方を振り返ると
スエットにジーンズと言う出で立ちの女の子がニコニコ笑っていた。
カジュアルな格好ながら
適度に着古した感じがすごく自然で、彼女のスタイルにとても合っていた。
私は、一生懸命気合いを入れた自分がなんだかすごく恥ずかしくて、中々返事ができないでいた。
そんな私を気にも留めず、
彼女は右手を差し出して言った。
「GジャンもTシャツもスカートも、私がめっちゃ可愛いと思ってたやつやから、つい話しかけてしもた。私、三波順子。」
その瞬間、私は彼女が大好きになった。
彼女の右手を握り返して私も笑顔で言った。
「私山田玉緒。よろしくね。」
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