薔薇姫-another story-
「マオさん、おはようございます!」
小走りで駆け寄って来たメイちゃんは、俺の目の前で立ち止まり、お辞儀した。
それが嬉しくて、思わず顔がほころぶ。
「お早う。メイちゃんは優しいなぁー。どっかの誰かさんとは違って」
「…おいコラ。誰のこと言ってんだよ」
「べっつにぃ~?現魔王サマはお父様に冷たいなぁって言っただけ」
「………」
「え、シカト?」
俺とレオのやりとりを、メイちゃんがくすくすと笑って見ていた。
本当にいい子だと思う。
けどあの日の俺は、"薔薇姫の子"というだけで、メイちゃんをレオから遠ざけようとしたんだ。
俺の兄貴は、立派な貴族だった。
他の貴族からも一目置かれ、尊敬されていた。
俺もそんな兄貴が大好きだった。
そんなある日、魔界を揺るがす出来事が起こった。
―――人間が、魔界に来た。
過去の歴史の中、人間が魔界に入り込むという例はなかった。