薔薇姫-another story-

兄貴は彼女との子を授かっていた。


その子に希望が託されていた中、兄貴は残酷な一言を告げた。



―――人間界へ帰れ、と。



泣き叫び拒否する彼女を、俺は何もできず、ただ呆然と見ていた。


兄貴は唇を噛みしめ、苦痛に満ちた表情で何度も謝った。



そして周りの貴族の反対を押しきり、無理やり彼女と赤子を人間界へ帰した。


二度と魔族に見つからないよう、彼女の瞳を黒に変えて。



この兄貴の身勝手な行動を、他の魔族が許すはずもなかった。


兄貴はすぐに魔界追放の刑を下され…殺された。


俺の心は、その時空っぽになってしまった。



その出来事がきっかけで、貴族を縛る掟がつくられた。


紅と蒼は近づいてはならないとされた。



兄貴が魔族でも稀な漆黒の翼を持っていたことから、同じ翼を持つものはさらに忌み嫌われた。


俺たち貴族は裏切りの烙印を刻まれ…地に堕ちた。



< 50 / 56 >

この作品をシェア

pagetop