薔薇姫-another story-
兄貴は彼女との子を授かっていた。
その子に希望が託されていた中、兄貴は残酷な一言を告げた。
―――人間界へ帰れ、と。
泣き叫び拒否する彼女を、俺は何もできず、ただ呆然と見ていた。
兄貴は唇を噛みしめ、苦痛に満ちた表情で何度も謝った。
そして周りの貴族の反対を押しきり、無理やり彼女と赤子を人間界へ帰した。
二度と魔族に見つからないよう、彼女の瞳を黒に変えて。
この兄貴の身勝手な行動を、他の魔族が許すはずもなかった。
兄貴はすぐに魔界追放の刑を下され…殺された。
俺の心は、その時空っぽになってしまった。
その出来事がきっかけで、貴族を縛る掟がつくられた。
紅と蒼は近づいてはならないとされた。
兄貴が魔族でも稀な漆黒の翼を持っていたことから、同じ翼を持つものはさらに忌み嫌われた。
俺たち貴族は裏切りの烙印を刻まれ…地に堕ちた。