からっぽ
ピーポーピーポー!!!

とサイレンの音が近くなる。

キュイーとトラックがすごい勢いで曲がってきた。

父は、よけようとした。

母は父にしがみついた。

「怖い・・・っ」

どーん・・・。

母は即死だった。

それが、父が聞いた最後の言葉だった。

父は、右手が義手。

俺は軽い骨折で済んだらしい。

兄は、学校に行っていて、無傷だった。

その日から父は仕事に行かなくなってクビになった。

「愛実?そこにいるんだろ?早く出て来いよ~。」

「愛実!ピクニックでも行こうか!」

などと、もうもどらない母に対して、何度も何度も話しかけた。

俺は父が会社がクビになってから、学校に行かなくなった。

担任の名前も、クラスのヤツらの名前も、知らない。

だから、家庭訪問にこられても返事ができない。

いつもいないフリをする。

そんな日々をすごしていた俺を見て、父は一生懸命に仕事を探した。

それが今の仕事。

『そこで、お前にお願いがあるんだ。ちゃんと勉強して、受験もして、学校も行ってほしい。お金はないけど、愛実にも安心してほしいんだ。」

と涙をぬぐって、いかにも決心したような瞳で俺をまっすぐに見つめた。

「考えとくよ。」

と、本当はすぐにOKするはずだったのに。

俺はいつから、こんなにぐれてしまったんだ?

こういう自分が嫌いだ。

変わりたい。

俺は決心して、学校に行くことにする。


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