線香花火 ** 夕恋独白
君と縁側と・・・
ヒュー…ッ パンッ

どこかでロケット花火の弾ける音がした。

肩に軽い感触がして、振り返ると君がいた。

少し早目の夕食を終え、申し訳程度の庭を眺めながら酒を飲む。

親父がそうだったように、こんな風に時間を過ごすのは、僕のちょっとした夢だった。

それに、君は楽しそうに付き合ってくれる。

ボール型に削った氷をカラカラカラカラ。

マドラーを振ると、揺れた蚊取線香の煙が、含んだ焼酎の刺激と一緒に、鼻の奥へ抜けて行った。

君は、湯上がりのかほりを纏って、僕の横にちょこんと座る。

飲めない君は片手にみぞれのかき氷。

ふと見ると、床に点々と黒い染み。

髪の先から、ポタンポタンと雫が零れている。

僕はタオルを取り上げると、わしわしと拭いてやった。

君はくすぐったそうに笑う。

まるで子犬みたいだ。

君は思い付いたように居間へ戻ると、コンビニの袋を持ってきた。

出てきたのは、昔懐かしい線香花火。

あんまり無邪気に笑うから、僕もつられた。

フワッ…

ライターの強すぎる火が、思いの外花火をあっという間に大きな火種へと変えてしまった。

そして間髪入れずにポタリと落ちる。

軽くショックを受けてる僕に、君はライターをねだると「得意なんだよ」と笑って、そっと火をつけた。

ジ…ジジッ…
バチ、パチパチパチ…

僕たちは風から花火を守るようにして寄り添った。

君は薄明かりの中で微笑む。

シュ、シュシュ…

激しい火花が消え、か細くなっていく。

危うい、花火の燭。

「………」

その呟きに、僕の身体が揺れた。

君の肩を掴もうとした時に、僕の花火はポタリと堕ちた。

「ほら。ね、あたしの勝ち」

そういって笑った君はもういない。

あれは去年の終わりだった。

今年も夏を迎えて、僕は庭に出た。

僕の左側はやけに広く、漂うのは蚊取線香だけ。

僕は独り、線香花火に火をつけた。

強すぎるライターの火が、フワリと紙を焼いていった。


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