線香花火 ** 夕恋独白
「パパ」

キャンディのように甘くやわらかな声が、僕の足元に纏わりついた。

「あのね、ママに買ってもらったの。一緒にやって?」

小さな紅葉みたいな右手をぐいと突き出して、屈んだ僕の前に見せたのは。

「線香花火」

「うん。かわいいでしょ?」

細長いビニール袋に入っていたのは、くるくると金のラインが巻かれた、濃いピンクの紙縒りの束。

それを見た瞬間に、どこかに封じ込めていた思い出が、甘い痛みの螺旋を描くように湧き出してきた。

「パパ?」

「うん、そうだね。ご飯が終わったら、一緒にしよう」

僕は縁側に腰かけて、膝の上に娘を乗せた。

あれから何年が経っただろう。

僕は上手に君を思い出に変えて、友人の紹介で新しい恋もした。

仕事も順調、言うことない生活をしてたけど、夏が巡る度に、僕の心はせつない色に変わった。

だけど、それも夏の僕の一部だと思えばなんでもない。

そう思っていた、あの日までは。

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