線香花火 ** 夕恋独白
冷夏が続いて、桜が病にかかった時、僕は思わぬ奇跡に出会った。

僕は、友人に恵まれてる。

この先ずっと、あいつらには、頭があがらないだろう。

ホントに、おせっかいで、人が良くて。

腹が立つほど、大好きだ。

紹介された庭師は、あろうことか君の会社だった。

僕は今、幸せだ。

君は、どうだろうか。

いや。

君のことだから、僕の心配なんて笑い飛ばしてしまうに違いない。

「久しぶりでしょ?」

悪戯めいた笑顔で、君は線香花火をちらつかせた。

あれから、僕がソレに対して幾分ナイーブになってるのを知ってるくせに、君はホントに意地悪だ。

僕は訴えるように見上げた。

が、君はニマリと笑うと隣に座った。

全国を廻って日に焼けた肌と髪、逞しくなった小さな身体。

あの頃とは違う・・それでも、変わらない気がするのは、僕らの先に未来が見えるから。

プロポーズした時、君は家を空けることを心配してたけど、帰る場所がここなら構わないんだ。

どこにいたっていい。

心がそばにあることが、何より幸せなんだって知ったから。

そして、時々こうして隣に座って、君と愛娘と縁側で、最高に幸せな時間をくれたなら。

僕は、君達を一生懸命守っていく。

「パパ、花火〜」

待ち切れない娘が、花火を開け始めた。

「アッ待てかじるなって!・・あのさ?」

ライターを取りに行く君の手を掴んだ。

「大好きだよ」

君は、向日葵みたいに笑うと「花火も気持ちも、まだまだあたしの勝ち」なんて言った。

確かに。

君の方が何倍も上手だ。

でも、男は不器用なくらいが調度いいんだ。

だって、何でも出来たら、向上心がなくなるじゃないか。

線香花火に火を点けながら、僕は心の中でそっと願った。

この幸せが、いつまでも続きますように。

少なくとも、娘よりは長く、花火が残りますように。

あぁ、これは願いというより、父のプライドだけどもね。

数年振りの線香花火は、ふわりと火を纏って、大きな火種を垂らし、夕闇でもはっきりとした綺麗な花を咲かせた。

煙りと火薬の臭いが目に染みて、少し霞んだけど、とても・・・とても綺麗な花だった。



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