図書館で会いましょう

「誠司…」
ベッドの上にいる人物。紛れもなく誠司だった。
「誠司…」
由美は寝ている誠司の頬を撫でる。何度も見た誠司の寝顔。そんな想いだった。
「何で…何でこんな所で寝てるの…？」
由美は力無い言葉で話しかける。だが返事はかえってこない。
「由美さん…」
誠司の母親は涙声で話しかける。
「誠司…誠司…誠司…」
由美はその言葉を無視して誠司の名前を呼び掛けている。
「誠司…誠司…ねぇ…返事してよ…いつものように…」
由美はずっと誠司の顔を撫でている。
「由美！」
後ろから抱きしめられた。真理子だった。
「ねぇ…真理子…誠司…返事してくれないよ…いつものようにイジワルするんだよ…」
由美は真理子の手を撫でながら子供のように呟く。
「由美さん…」
再び誠司の母親が声をかける。由美は茫然自失とした表情で母親を見つめた。誠司の両親とは何度も会ったことがある。二人とも明るく気さくな人間だった。今、目の前にいる二人はまったくの別人の様だった。しかし今の由美は何も考えられなかったが、
「由美さん…これ…」
母親が目の前に差し出した小さな箱を手に取った。開けるとそこには指輪が入っていた。
「これ…」
「由美さん。今日、誠司はこれを取りに行った後、車に…」
母親は言い終えることなく大声で泣き出した。父親は母親の肩を優しく叩く。父親が母親に変わるように話しかけた。
「由美さん。どうやら…誠司は今日、あなたに結婚を申し込もうとしていたらしい。それで注文していた指輪を取りに行ってあなたの所へ向かっている途中で…信号無視した車に…」
父親も言葉が詰まってしまう。指輪は指輪を見つめて思いかえしていた。
『由美はどんなプロポーズされたいんだ。』
『結婚指輪を指にはめてもらいながら、結婚してくれ！って言ってほしいかな。』
誠司は由美の理想のプロポーズをしようとしていた。誠司の優しさが指輪からにじみ出ているようだった。指輪を見つめながら由美の瞳から涙が一筋、また一筋と流れてくる。誠司の顔を見つめる。誠司の顔は小さな擦り傷はあるもののいつもと変わらないものだった。
「誠司…誠司！」
病室に由美の叫ぶような声が響いた。