図書館で会いましょう
由美は誠司の葬式には参列しなかった。いや、式場には向かったものの中には入れなかった。式がまったく無関係のものに思えた。誠司の母親が入り口の前で立ち尽くす由美を見つける。
「ゆ…」
視線が合い由美に話しかけようとしたが由美は一つ会釈をして去ってしまった。
それから由美は一月近く家から出てこなかった。
ある日真理子が由美を訪ねる。インターホンを鳴らしても出てこないので部屋に入ると由美がカミソリで手首を切ろうとしていた。
「由美!」
真理子は急いで由美に飛び付きカミソリを払った。
「何してるの!?」
真理子は怒鳴るように言うと由美は泣きながら叫んだ。
「誠司のところへ行かせてよ!」
「馬鹿!!」
真理子は由美を思いっきりひっぱたいた。
「そんなんで誠司くんが喜ぶと思ってるの!」
由美は無言で泣くだけだった。
それから一年が過ぎた。由美は真理子の足蹴に通い、励ましてくれたおかげで仕事に復帰することはできた。ただ、まだ誠司の死を受け入れることは出来なかった。この町の司書の仕事も由美は色々な思い出から『逃げる』というのが本音だった。
「誠司くんのこと、まだ駄目なの?」
真理子の言葉に由美は返事が出来なかった。
「…そうか…」
真理子の声は悲しそうだった。由美は真理子の優しさのおかげで今を生きていることを理解している。真理子のためにも何度も誠司の死を受け入れようとしたが、出来なかった。自分が真理子を悲しませていることに罪悪感を感じていた。
「ごめんね…」
由美は呟くように言う。
「何で謝るの?」
「わかってるの、全部。でも私、誠司の最後の言葉を聞いてないんだよ。でも聞きたくないの。誠司がもういないって思いたくないの。」
悲痛な叫びだった。真理子は由美の言葉に何も言えなかった。立ち直らせることはできても最後の扉を開くのは由美本人でないといけないことは真理子も理解している。だから今は何も言えないし、言うべきでないと思っている。
「わかったよ。何も言わない。でも元気だしなさいね。」
真理子の声に由美は少し安心した。