図書館で会いましょう

「あっ、そうそう。」
由美がカップを片付けようとした時、館長は何か思い出すように言葉を出した。
「どうしたんです？」
由美はカップをシンクに置き蛇口を捻る。
「展示会の初日なんですが東京のほうから雑誌の取材にくるそうですよ。」
「はぁ？」
カップを手に持っていたらおそらく落として割っていただろう。館長の言葉は由美にとって寝耳に水だった。館長も聞いたことのない由美の声に驚く。
「いやいや…昨日、連絡があったものなんでね。」
館長はその場を繕うように話す。
「で…受けたんですか？」
「ええ…まぁ…」
館長の言葉は由美の体から何かを抜いた。思わずその場に座り込みそうだった。
「えーと…ダメでしたかねぇ？」
由美の反応に館長はどうすれば良いのか分からなかった。
「ダメじゃないですけど…」
取材ということは全国的に紹介される。由美は自分が作ったものが受け入れてもらえるのかが不安だった。
「ちなみにどこが来るんですか？」
「確か…春日出版の人だったと思いますよ。」
「春日出版…」
由美ははっと目を見開いた。真理子が働いている会社だ。
「館長。電話してきたの女性じゃないですか。」
由美は囃し立てるように問いかける。
「そうですね…はい。」
「山本って言ってませんでしたか？」
「あー…確かそう言っていたと思います…はい。」
館長は完全に由美に圧倒されていた。
『真理子〜！』
この前の電話どは何も言ってなかった。由美は頭に血が昇るのを感じていた。
「えーっと、遠山さん…」
館長はおそるおそる由美に問いかける。一瞬だったが館長の存在を忘れていた。館長の言葉に由美は我にかえった。
「あっ！はい。」
「とりあえずそんなことでお願いします。」
館長はすっかり疲れきっていた。
「あっ。はい。」

その日、アパートに帰った由美は部屋に入るなり携帯を手に取った。コールが数回鳴る。ガチャという音が鳴った後の声の主は真理子だった。
「もっしもーし。」
真理子の声は相変わらず楽観的だ。