図書館で会いましょう
展示会の初日を迎えた。事前の宣伝と今放送されている時代劇の人気も重なり初日から大勢の人が来場していた。由美は展示会場の事務室の窓から場内の様子を伺う。何しろ最初から最後まで段取りをしたのが初めて。その不安は今がピークだった。
「大丈夫ですよ。」
後ろから館長が声をかける。さっきまで市長や教育委員会の偉い人を案内していた。
「市長も絶賛していました。それに来場した方々も良い表情じゃないですか。」
由美は館長の笑顔とその言葉にほっと安心した。改めて場内を見ると展示を見る客は真剣に資料を覗きこんだり、もしくはそれらを見ながら何か話し合っている。皆、興味深い表情をしてくれている。そんな来場者の顔を見て由美は感慨深いものを感じていた。
「由美。」
別の世界にいた由美を聞き覚えのある声が現実に戻す。振り向くと真理子がそこにいた。
「真理子。」
真理子は笑顔で由美に近づいてきた。
「だいぶ盛況じゃない。」
真理子は館内の様子を見ながら言う。少し気持ちが高ぶっているようだ。
「おかげさまで。」
少し皮肉を込めるように返した。後ろから館長が真理子を覗きこむように伺う。それに気付いた由美は体を避けて、
「あっ、こちらが柴田館長。」
と紹介した。真理子は鞄から銀色のケースを取りだし中に入っていた名刺を館長に差し出した。
「初めまして。春日出版の山本と申します。」
「取材の方ですね。館長をしています柴田です。今日はよろしくお願いします。」
館長も名刺を差し出した。館長に挨拶をする真理子の顔はいつもと違い、一編集者山本真理子だった。何か大人の表情で由美は思わず感心してしまった。
「それでは遠山さんに案内してもらいますかね。」
館長の言葉に驚く。
「私ですか?」
無理無理と手を縦に左右に振った。
「さすがに友人が案内すると私情が入りますので…できましたら館長に案内をしていただきたいのですが…」
二人の様子を見ていた真理子が切り出す。
「そうですか…分かりました。私で良ければ。」
館長はそう言って真理子を案内するために歩きだした。館長の後を歩く真理子はちらっと由美を見て左目をウインクした。
『真理子、ありがとう。』
由美は心の中で真理子にお礼を言った。