図書館で会いましょう
「そうですね。私には子供がいないので、遠山さんが娘のように思えます。」
館長の言葉がとても暖かく感じる。由美にとってこれ以上ない言葉だった。
しばらくインタビューが続く。周りのシャッター音にもだいぶ慣れた。
『誰だったけ…?』
由美はカメラマンのことがまた気になりはじめた。カメラマンの顔を伺おうとするがカメラが邪魔でよく見えない。
『誰…?』
由美の疑問はどんどんと深くなっていく。
「今日は本当にありがとうございました。」
真理子がインタビューの終わりを告げる。その時、カメラマンがカメラを胸元の位置まで降ろす。今日はじめてカメラマンの顔をじっくりと見れた。彼の顔が由美の記憶の中で一致する。
「あっ!」
由美が叫んだ。いきなりの叫び声に真理子も館長も驚いて由美を見る。カメラマンも同じだった。
「どうしたんですか?遠山さん。」
「由美!驚かさないでよ!」
真理子の口調はいつものそれに戻っていた。
「あ、あなた…」
由美はカメラマンを指差す。いきなり指されたカメラマンは動揺を隠せない。いきなりのことでどう対処すればわからない様子だ。
「あ、あの…池で…」
由美自身もどう説明すれば良いのかわからない。
「何?由美、北澤さん知ってるの?」
真理子の会話でこの人物が『北澤』だというのを知る。
「あのね、池で…」
由美は動揺して会話にならない。その様子を見ている真理子も館長もどうすれば良いのかわからない。カメラマンも首を傾げている。
「池…池で…」
『池』というキーワードにカメラマンが反応を示す。そして由美の顔を観察するようにじっと見つめた。真理子と館長はこの不思議な状況をただ黙って見ていた。そしてカメラマンが、
「あー…」
と言葉のようでない言葉を出す。何かわかったようだ。
「どうしたの?北澤さん…」
真理子がおそるおそる問いかける。
「あの池の公園に来た…」
北澤の言葉に由美は子供のように頷く。
「何なの…?」
真理子は怪訝な顔をしている。北澤は真理子とは対象的に笑顔になった。
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