図書館で会いましょう

北澤

日も暮れてきた。展示会の初日も問題なく終えて由美は胸を撫で下ろす。安心すると同時に何とも言えない疲労感に襲われた。今日、お酒を飲んだらすぐに酔うだろうなと思った。
「お疲れ様。」
館長の優しい声が聞こえてくる。
「今日は疲れたでしょう?先に上がってください。」
「え…でも…」
展示会は8時まで開いている。時計の針はまだ6時を示そうかというところだった。
「今日は朝早かったでしょう。もうこの時間になれば問題ないですから。」
館長は相変わらずの笑顔だった。
「そうですか…じゃあお言葉に甘えて。」
由美が図書館を出た時はまだ外はうっすらと明るい。携帯を見るとメールがきていた。真理子からだった。
『ごめん!打ち合わせで遅れそう。7時半でよろしく。』
忙しいんだなぁと思いながら『了解』と返信した。
時間まで1時間以上ある。自転車を家に置いていこうと思い自宅へ向かった。久しぶりに明るい時間帯で並木通りを通る。真っ暗な中で通ったのはここ一、二週間のことなのに妙に懐かしく感じる。図書館から10分ちょっと。すぐに自宅に着いた。
「ただいま〜」
ベッドに倒れこみたい気分だったがそれをしたらとてもじゃないが起きる自信はない。テレビを着けると夕方のニュースが流れる。株価の下落、政治家の汚職…何か暗いニュースばかりで思わず消した。テレビを消すと部屋の中はまた無音になる。由美は次にCDをかけた。音楽が流れてくる。その音に耳を傾ける。少し前の曲。由美は思わず誠司のことを思い出してしまった。
『疲れてるのかな…』
展示会までほとんど休みなしだった。精神的にも誰にも言わないが疲れていたのは事実だった。その証拠にちょっとしたことで誠司のことを考えてしまう。気が付くと約束の時間が近づいていた。
「そろそろ行くかぁ…」
ゆっくり歩いていけばちょうど良い時間だ。由美は少し重く感じる身体を持ち上げた。カーテンを閉めようとふと外を見ると梅雨とは思えない夕暮れだった。それを見た由美は身体の重さが少し紛れた気がしていた。
駅前までゆっくり歩いていると真理子から電話がきた。
「もしもし。」
「ごめんね。今終わってホテルの部屋に入ったところなんだ。駅前で待ち合わせでいい?」
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