図書館で会いましょう

一年前

外は雨が降り続いている。気が付くと陽も暮れていた。昼間はさほど感じなかったが夕方になると肌寒く感じる。由美はクローゼットからカーディガンを出し、それを羽織った。
由美はワインを開けていた。部屋には静かな音楽をかける。部屋の中はそれ以外の音は無かった。由美にとっての今日は特別な日だった。だから無理に休みを入れた。ワインを一口飲んでは物思いにふける。夕方になる少し前からそれを繰り返していた。気が付くと外はすっかり暗くなっていた。
そんな時に携帯が鳴る。誰だろうと着信を見ると友人の真理子だった。
「もしもーし。」
あまり出るのは乗り気ではなかったが真理子からだったので出た。真理子は大学からの友人で今は都内で雑誌の編集をしている。
「あっ、由美?久しぶり。」
真理子の声は相変わらず明るく大きい。今の静かな部屋では外にまで聞こえそうだ。
「相変わらず元気ね。」
やれやれという感じで答える。
「久しぶりだってのにそれ?まぁいいや。ところで由美、今何してるの?」
「部屋でワイン飲んでるよ。」
真理子の声が一瞬詰まる。たぶん予想していなかった答だったのだろう。
「もう…てっきりこっちに戻ってくるかなって思ってたのに。」
「明日、仕事だしね。」
由美がそう答えると二人の間に重い空気が流れた。
「もう…まだ駄目なの?」
真理子はさっきと違って静かに話した。
「駄目って?」
「もう一年経つんだね…」
「そうね…」
一年前の今日、この日は由美のかつての恋人桑山誠司の誕生日であり、そして命日でもあった。
「誠司くんのこと、まだ駄目なの?」
「…」


桑山誠司と由美は大学の時に知り合った。
「あっ。」
誠司と由美の出会い。それは何気ない一言からだった。
「すいません。消しゴム、取ってもらっていいですか?」
必修の講義の時だった。たまたま席の隣にいたのが誠司だった。彼の消しゴムが由美の椅子の下に転がってきたのだ。
「あっ…はい。」
由美は消しゴムを取り上げ誠司に渡す。その時、彼のノートが目に入った。ノートの端っこに犬の落書きがたくさん書いてある。それもマンガのようにキャラクターがコミカルに動いている。
「くすっ…」
それを見て思わず由美は小さく笑ってしまった。
「えっ…」
< 3 / 59 >

この作品をシェア

pagetop