図書館で会いましょう
しばらくするとテーブルの上は料理で埋まっていた。二人はワインで乾杯をしている。
「さぁ食べよう!」
真理子は空腹の限界だったようだ。適当に料理を皿に取り口に運ぶ。
「う〜ん…美味!」
至福の表情だ。由美も同じ表情をする。今日一日の疲れが体から抜けるようだった。
二人はたわいもないお互いの最近などを話していた。料理も半分ぐらい減った頃、
「そうだ。あのカメラマンさんは大丈夫なの?」
と由美が問いかける。
「ん?北澤さんのこと?」
真理子はサラダを口に運ぼうとしていた手を止める。由美は真理子の言葉に黙って頷いた。
「彼、うちの人じゃないのよ。今日だけ撮影をお願いしたの。」
「そうなんだ。」
「うん。彼の写真があるだけで売上が違う時があるしね。今回は力入れてる企画だったからお願いしたの。彼、地元だし。」
真理子の言葉から少なくとも北澤とは何度か仕事をしたことがわかる。
「そうなんだ。北澤さんって有名なの?」
由美がそう言うと真理子は少し驚いた表情をする。
「えっ?由美、知らないの?」
予想外の返事にとまどいを隠せない。
「えっ…恥ずかしいながら…」
「北澤晃って言ったら何年か前までは売れっ子のカメラマンだよ。彼が撮ったグラビアの写真集とか絶対に売れるんだから。」
「へぇー…」
「まあ、由美は芸能に疎いもんね。」
的をえた言葉だが少し拗ねてみた。それを見た真理子は面白かったのか笑顔になる。由美は逆に真理子の笑顔を見て自然と笑顔になった。
「何年か前って今は落ち込んじゃったの?」
真理子の言葉の中で気になるところだった。真理子は由美の疑問に首を横に振った。
「何年か前って…三年ぐらい前かなぁ…?急にスタジオを閉めてこっちに引っ込んじゃったんだよね。」
「ふぅん…」
由美はワインを飲みつつも真剣な眼差しで真理子の話を聞いている。
「それ以来グラビアは撮ってないのよ。風景画とかでたまぁに写真集は出しているんだけど、そういうのって玄人好みっていうのかな?あんまり話題にならないから…いつの間にかあんまり名前を聞かなくなっていったんだけどね。」
「そうなんだ…」
由美の中で北澤晃という人物が謎の人物に変わっていく。
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