図書館で会いましょう

重なる

北澤の件から数日が経った。由美の中ではすでに忘れた過去のことになっていた。その日は昼時の窓口に出た後、遅めの昼食を自分の部屋で取っていた。
「遠山さん。」
部屋に入ってきたのはパートの川上さんだった。由美はおにぎりを頬張りながらながらそちらを向く。
「ふぁい?」
その姿があまりにも面白く、川上さんは思わず吹き出してしまう。
「遠山さーん、それは…」
由美は口に入っていたおにぎりを飲み込み、
「ごめんなさい。」
と自分も笑った。川上さんが笑った原因は簡単に想像がついた。
「で、どうしたんですか?」
「窓口にお客さんですよ。」
「お客?」
今日の予定を思い出してみても来客の予定はなかった。
『誰だろ?』
そう思いつつも食事をやめ部屋を出た。窓口に行くと北澤が立っていた。
「あらっ?」
由美は北澤にカウンターの椅子に座るよう促す。北澤は軽く会釈をして座った。
「どうしたんですか?」
「出来たんです。」
「出来た…?」
由美は何が出来たのか考える。少し考えていると北澤は追うように、
「絵!」
と言った。そのキーワードで由美の記憶が甦る。
「あぁ!」
由美は先日のやりとりを思い出した。ほんの一週間程度前のことを忘れていたことに恥ずかしい気持ちがあるが、それを北澤に悟られないように平然を装った。
「ずいぶん早いですね。」
それでもこの前のことから出来上がりまでだいぶ早い。由美は絵は時間がかかるものだと思っている。
「いや、この前お会いした時にはほとんど仕上げの状態だったんで。ちょうど仕事もオフだったから。」
北澤は自分の絵が完成したことが嬉しいのか、だいぶテンションが上がっているように見えた。
「そうですか。じゃあ明日、私休みなんで伺わせてもらいます。」
「本当ですか?」
「はい。」
会って間もない男性の家に行くのは少し気が引けたが、それ以上にこの前の絵がどんな風になったのかという興味のほうが強かった。何より真理子の知り合いというのには信用がある。真理子が悪く言わない人物には間違いがない。
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