図書館で会いましょう
「じゃあ、家は駅の近くなんで向かえに行きます。何時ぐらいがいいですか?」
北澤は少し落ち着いたのか口調はいつものそれに戻っていた。
「じゃあ午後がいいんで2時に。」
「わかりました。」
北澤はそう言って出口のほうへ歩いていった。その後姿を見送ると、
「彼氏?」
後から川上さんが声をかけてきた。
「びっくりした。違いますよー知り合いです。」
「そう?知り合いにしては良い雰囲気だったけど。」
川上さんは意地悪そうに笑う。
「そうですか?」
由美は素っ気なく答えた。変に何か言うと更にからかってくるような気がした。
「でもいい男じゃない。ああいう男は捕まえとかないとダメよ。」
「ははっ。」
川上さんの言葉に乾いた笑いでかわす。由美は食事に戻るために自分の部屋へ向かった。

その日の夜。真理子へ今日の出来事をメールで送った。仕事中だったのか一時間ぐらい経ってからメールではなく電話がきた。
「由美。どうしたの?」
真理子の声は驚きを表していた。
「どうしたの?って。」
「だって、明日北澤さんの家に行くんでしょ?そりゃあ驚くわよ。私だって。」
どうも怒られている気分になる。
「だって…絵が見たかったんだもん…」
由美の様子に気付いたのか真理子は口調を落ち着かせた。
「まぁ…彼は変なことしないと思うけどね。こっちにいた時も変な噂は無かったし。」
その言葉で更に安心した。やっぱり真理子の眼を信じて良かったと思う。
「でも…彼もやけに積極的だなぁ。」
「積極的?」
「うん。彼、こっちにいた時、撮影とかで女優さんとかと知り合って食事とか誘われても行かないのよ。ほら、結構顔はいいでしょ?もててはいたけどお誘いには乗らないことで有名だったけどね。」
「ふぅん。」
由美の中で北澤晃という人間が『変な人』で固まりつつある。
「私が誘ってもダメだったんだから。」
私がという言葉にツッコミを入れようかと思ったが怒られそうなのでやめた。
「まぁ安心していいんじゃない?」
「ありがとう。」
真理子の言葉で少し明日が楽しみになってきた。こんな気持ちも久しぶりに思えた。
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