図書館で会いましょう
「三年前に亡くなりましたが…」
北澤は寂しそうな微笑みで写真立てを置いた。
「三年前…」
また二人の間に重たい空気が流れる。北澤は写真を見つけながらそばにあった椅子に腰かけた。
「妻とは大学の時に知り合ったんです。芸大でね。彼女は絵画を。僕は写真を学んでました。」
由美は黙って聞いていた。
「あまり共通点がないように思えるでしょ?」
由美は頷く。
「でも僕は写真にも絵画での構図とか…そういうのが使えるんじゃないかなって思って友人に頼んで絵画の学部に行ったんです。そこで彼女を見たんです。」
北澤は浅いため息をつく。
「一目惚れでした。幸い彼女も僕の気持ちを受け入れてくれて交際が始まりました。」
由美には北澤と写真の女性が幸せそうに歩くシーンが目に浮かんだ。
「大学3年の時にアルバイトしていた事務所で僕の写真を使ってもらえたんです。それから仕事が来るようになって。彼女はそれを喜んでくれました。そして大学卒業と同時に一緒になりました。」
北澤は写真立てを再び手に取った。北澤の静かな口調は外の音も奪う。由美には北澤の声しか聞こえていない。
「それから仕事はどんどん来るようになり、僕は家を留守にすることが多くなりました。それこそ週一とかね。それでも彼女は笑顔で向かえてくれて…僕は自分が成功していくことが彼女の幸せだと思ってたんです…」
北澤の声がつまる。まるでテレビドラマでも見ているような、現実を感じられない気持ちになっていた。
「北澤さん…」
小さく声をかける。
「すいません。でも…何だか話したくて。」
素直な言葉だった。由美はその言葉に黙って頷いた。最後まで聞かないといけない。由美は頭の中で呟いた。
「ふぅ…そして三年前です。僕の携帯が鳴ったんです。妻が倒れたと…」
心なしか写真立てを持つ手が震えていた。
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