図書館で会いましょう
「まりみちゃん、大丈夫だよ。」
せめて出た言葉だった。笑顔を作り、まりみちゃんの頭を撫でる。まりみちゃんは口を半分開き、由美の顔をじっと見つめていた。そのつぶらな瞳で見つめられると、由美は自分の心を全部見透かされているように思えた。
「まりみ。」
声のするほうを見ると、まりみちゃんの母親が小走りで近づいてきた。
「おかあーさん。」
まりみちゃんは由美の手から離れて、母親のほうへ走っていく。
「ダメでしょ。一人でうろうろしちゃあ。」
「はーい…」
叱った後、母親は由美のほうを向き、
「いつもすみません。」
と頭を下げた。由美は合わせるように頭を下げる。
「バイバーイ!」
まりみちゃんは母親につられ、笑顔で手をふっていった。由美も微笑みながら手をふる。
『困った顔か…』
心の中で呟いた。子供の素直な声は由美の心に痛いほどしみる。一つため息をつき、自分の持っていきようのない感情が一層重くなったのを感じる。
その日の仕事を終え、片付けをしていると、
「遠山さん。」
振り向くと館長が立っていた。
「あ…お疲れ様です。」
館長はいつもの様に笑顔だった。
「ちょっと、私の部屋に来てくれますか?」
「はい。」
由美は手帳とペンを持ち、館長の部屋へ入っていった。
「まぁ座ってください。」
由美は促されるようにソファーへ座った。館長は部屋の隅からカップを二つ持って、由美の向かいに座る。コーヒーが入ったカップを由美に差し出す。
「どうぞ。」
「あっ、すいません。」
館長はコーヒーにミルクと砂糖を入れ、スプーンで混ぜる。由美はブラック派なのでそのまま口に運んだ。
「展示会のほうはいかがですか?」
館長が唐突に切り出す。
「はい…何とか順調に進んでます。」
思うように進んではいなかったが、予定の範囲内ではあった。
「そうですか。それならいいんですが…」
館長もコーヒーを口へ運ぶ。一口飲み、一息つく。
「最近、遠山さんが元気ないなと思いましてね。」
由美は言葉に詰まる。
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