図書館で会いましょう
「すいません…」
由美は絞り出すように声を出す。由美の言葉に館長はニコリと笑う。
「いや、別に責めているわけではないですよ。」
館長の気持ちはわかっている。それだけに余計申し訳ない気持ちになるのだ。
「何かあったんですか?」
館長はカップを手に取り、静かに語りかける。由美はテーブルの上に置いたカップに手を置くものの、それを持ち上げることが出来なかった。この町に来てから誠司の事は誰にも話していない。それを話した瞬間、自分の何かが壊れてしまう不安があったからだった。しかし、館長の温かい笑顔を見てると話すべきなのだと由美は思った。
「実は…」
由美は誠司のことを話し出した。出会いから、あの夜のことを。そして北澤のことも。気がつくとカップのコーヒーは温もりを失っていた。由美が話している間、館長は何も言わず、ただただ黙って由美の言葉を聞いていた。由美が全てを話終えた時、由美は一筋の涙を流していた。
「使ってください…」
館長がハンカチを差し出す。由美は黙って頷き、それを受け取った。
「遠山さん…辛かったですね…」
静かな言葉で語りかける。その言葉に黙って頷いた。
「でもね遠山さん。その誠司さんは、今のあなたを見てもっと辛いのではないでしょうか?」
「えっ…」
思いもよらない言葉だった。
「いや、失礼。別にあなたを叱る訳でもありません。私もね、最愛の人間を亡くした経験があります。ここに来た理由もそれです。」
不思議に思ったことはあった。柴田館長は学会でも名前が知られている人物だった。それほどの人が何故、地方の図書館の館長をしているのかが不思議だった。
「館長もですか…」
「ええ。私が研究に没頭している間、ずっと支えていてくれた妻です。」
館長はぬるくなったであろうカップのコーヒーを一口飲み、静かに一息ついた。
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