図書館で会いましょう

新しい扉

電車の窓から見える景色はどこか懐かしいものになっていた。由美が今見ている景色には色はない。ただセピア色の景色が流れていた。それらはかつて誠司と見ていた景色。由美は感情もなく、ただただ見つめている。
今日、戻ってきていることは真理子には伝えていない。伝えたら頼るような気がしてしまったからだ。後で知ったら怒られるんだろうな。由美はそう思いながらも、真理子に連絡することを思いとどまった。自分の弱さを知っているからこそ、連絡をしてはいけないと思ったからだ。
電車はある駅で止まる。各駅の電車しか止まらない小さな駅。ここが誠司が生まれ育った町だった。誠司と一緒にいた頃に数回来たことがある。改札を抜け、記憶を頼りに由美はゆっくりと歩き出した。
まだ景色はセピア色のままだった。懐かしさを感じながらも心はだんだんと鼓動を速めている。自問自答を繰り返す。館長に背中を押してもらった。自分を支えてくれる友人もいる。ただ、これから受け入れるべき現実はそれらを全て飲み込んでしまうのではないか、自分自身が耐えられないんじゃないか、そんな恐怖が刻一刻と近づいてくるのが手に取るように感じていた。
しばらく歩き、ある曲がり角を曲がる。セピア色の景色の中で、一つだけ色が塗られた。そこが誠司の実家だ。
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